~ 17名の瞳がきらきら光っていてリアルに「34の瞳」だった。
全員の瞳が忘れられない。過去にない体験だった。(津田直士Twitterより)~
2014年の夏、僕はソニーミュージックのスタッフから、音楽の講義を依頼された。
受講するのは、同社のSDグループ(新人発掘セクション)が主催するオーディション
『the LESSON』で選ばれたアーティストの卵たち、依頼された講義内容は「作曲の方法について」だった。
数週間後、講義をするために用意された教室へ入ると、初々しい顔が一斉に僕を見た。
僕は驚いた。
僕を見つめるその瞳が、とてもきれいだったからだ。
そして僕は直感した。
『可能性のある、いい子たちだ・・・』
僕は音楽業界に30年いる。
その30年、新しい才能を求めて新人アーティストには常に気を配ってきた。
そもそもソニーミュージックの社員だった僕のキャリアスタートは、
今回の講義を依頼してきた新人発掘セクション、SD事業部だった。
その頃の僕は、オーディションを運営統括しながら数えきれないデモ音源を聴き、様々なライブハウスに足を運び、菅野よう子の在籍していた『てつ100%』や『L→R』、『Super Bad』や『エレファントカシマシ』を発掘し、世に送り出していた。X(現X-JAPAN)に至っては惚れ込んだあまり、自らプロデュースも手がけた。
新人アーティストとの出会いは、僕にとって本当に魅力的で大切なことだった。
2003年から僕はフリーランスの作曲家・プロデューサーになったけれど、新しい才能への興味は変わることなく様々なオーディションやコンテストなどで審査員・プロデューサーとして積極的に新人アーティストの発掘に携わっていた。
ところが・・・。
2007年頃からだろうか、僕は異変を感じ始めた。
圧倒的な可能性を感じるアーティストが探しても探してもいないのだ。
僕の場合、その時点での完成度には興味がなく、たとえ荒削りで未完成であっても、
今後大きく伸びていく可能性が見えた時点で、そのアーティストに興味が湧く。
けれども、そういった大きな可能性を感じるアーティストと、なぜか全然出会えないのだ。
CDの売上げ推移が鈍化し、業界全体に暗雲が立ちこめ始めたこともあって、
僕は音楽の未来への不安からブルーな気分になっていった。
2012年の春、僕はいよいよ本気で新人発掘をすることを決意した。
CD不景気が決定的になり、音楽業界が弱り始めている今こそ、新たな才能を見つけ、きちんとプロデュースして世の中に送り出したい、と強く思ったのだ。
そうして動き始めると、また新たな変化を肌で感じるようになった。
可能性のあるアーティストの卵たちの姿を、再び見かけるようになったのだ。
さらに興味深いのは、その子たちが皆、なぜか1990年以降に生まれた若い人たちだ、という事実だった。
『何かが起こり始めている・・・』
自分の直感が当たっていることを願いながら、僕は新しい才能を積極的に探し始めた。
やがて才能あるアーティストと出会い、そのプロデュースをじっくり進めていた時に依頼されたのが、『the LESSON』での講義だった。
2014年8月20日。
自己紹介をしながらきらきら光る17名の瞳を見ていた僕は、作曲の前にもっと大事な話をしよう、と咄嗟に判断した。
長い間、才能のあるアーティストたちを見て、育て、プロデュースをしてきた経験が、僕に「この子たちには何かがある」と訴えていたからだ。
僕は、『選ばれたアーティストはどんな人間であるべきか、そして創作や表現についてどのような姿勢で臨むべきか』というテーマから話を進めた。
その後も、単なる作曲方法ではなく『作品を創ることの意味』『作品におけるオリジナリティの大切さ』など、
いつも僕が選ばれたアーティストをプロデュースする際に話す、とても大事な話をしていった。
僕の話を真剣に聞く表情、ちゃんと受けとめていることが明らかにわかる反応、
そして何よりその強く輝く瞳を見ながら、僕はとても深い感動を覚えていた。
講義が終わっても話しかけてくる何人かの顔やその表情に、
僕は自分の中で受講生たちへの期待が確信へ変わりつつあるのを感じていた。
講義が終わり、気心の知れたスタッフと飲みながら、その日の講義と受講生たちの話をしている時に、僕は言い切った。
「凄く可能性があるね。僕もSDスタッフの経験があるから自信を持って言うけど、こんなに可能性のある子たちが集まっているのは、かなり貴重な、珍しい状態だと思う」
スタッフも同じ気持ちだったから、僕たちはそのことで何時間も熱く語り合った。
僕はあまりの嬉しさにその夜の感動を、自分のTwitterでありのまま呟いた。
その講義から、数カ月後。
同じ「the LESSON」の、今度は二期生の講義で再び作曲の講座を依頼された僕は、『34の瞳』という奇跡があの日だけではなかったことに気づいた。
新人発掘の経験からして明らかに素敵な奇跡は、どうやら『the LESSON』というオーディション自体に潜んでいるようだった。
そんな僕の感触は、やがて受講生たちの明るくて無邪気な活躍によって間違っていなかったことが明らかになっていく。
一期生の “にゃんぞぬデシ”(当時はライブ経験も殆どなく、名前も本名を名乗っていた)は、
ユニバーサルが主催するオーディションで入賞、つい先日も、mona records主催のオーディションでグランプリを獲得。
二期生の“みきなつみ”と“梨帆”は、オーディションやユーザー投票を経て、それぞれ、TFM主催の「未確認フェスティバル」、夏フェスの代名詞「SUMMER SONIC 2015」のステージに立っている。
“Foi”と“ましのみ”は、ヤマハが主催するミュージックレボリューションのファイナリストに選出され、“ましのみ”はグランプリまで受賞した。
“SaYaKa”も、東京都高等学校軽音楽連盟主催のコンテストの全国大会で準グランプリを獲得。
1998年前後生まれを中心とした未来ある若い才能たちは、暗雲が強くなっていく音楽シーンのなかで、
自分らしさをその若さのまま無邪気に炸裂させながら、それぞれに活動を展開している。
そこに、僕は明るい未来を感じ始めた。
だから積極的に彼女たちのライブを観に行き、感想やアドバイスを伝えた。
僕のプロデュース音源の制作に一期生の“にゃんぞぬデシ”、“宮部 真”、“犬塚ヒカリ”、“西村 瑠華”
そして二期生の“ENNE”に参加してもらったのもその可能性への期待の表れだった。
既に4期生まで登場した『the LESSON』の受講生たちの今後を考えて、僕はもっと自分にできることはないか、考えた。
その結果、才能に期待するアーティストに対して、僕のプロデュースによる音源のレコーディングと、
その音源をソニーミュージックグループのレーベルゲートが運営する『mora factory 』からリリースすることを、これから積極的に展開することにした。
またそれに並行して、才能の伸ばし方と作曲・アレンジに有効なコードメソッド、そして作品創りのアドバイスをマンツーマンで行う個人講座もスタートした。(詳細はこちら)
まず、二期生の“梨帆”については、音源プロデュースと個人講座の2つをベースにして、本人の才能の開花を重視する僕なりのプロデュースを始めた。
そして一期生の“西村 瑠華”は僕のプロデュースによる音源の制作を始めた。
『mora factory』からのリリースに向けて音源をプロデュースする予定のアーティストは他にもいる。
これらを皮切りに、僕は僕なりのやり方で若い才能の力になるべく、少しずつだけれど『the LESSON』の受講生たちに対してできることを進めていきたいと思っている。
2003年から10年間、期待していた才能と出会えない寂しさに包まれていた僕に、突然明るい未来を見せてくれた『34の瞳』…。
あの日、始まった受講生たちとの出会いが、そして無邪気でかわいくてワクワクする、彼、彼女たちたちの活動が、日本の音楽シーンに新たな可能性を生み出してくれることを、僕は楽しみにしている。
●津田直士プロフィール
小4の時 バッハの「小フーガ・ト短調」を聴き音楽に目覚め、中2でピアノ を触っているうちに “ 音の謎 ” が解けて突然ピアノが弾けるようになり、 作曲を始める。
大学在学中よりプロ・ミュージシャン活動を始め、85年よりSonyMusicの ディレクターとしてX (現 X JAPAN)、大貫亜美(Puffy)を始め、数々のアー ティストをプロデュース。
‘03年よりフリーの作曲家・プロデューサーとして活動。
牧野由依(Epic/ Sony) や臼澤みさき(TEICHIKU RECORDS) 、BLEACHの キャラソン、ION化粧品のCM音楽など、多くの作品を手がける。
また、2009年にはXのメンバーと共にインディーズから東京ドームまでを 駆け抜けた軌跡を描く「すべての始まり」を上梓。
2014年よりSony Music Groupの音楽配信サイト「mora.jp」 のプロデュ ーサーとして、
Shiho Rainbowを始め新人アーティストを積極的にプロデ ュースして送り出し、
さらに自らの作品によるインストルメンタル・アル バム『Gradation』『Anming Piano Songs』のリリース、
読み物「名曲の 理由」の連載など、多様なプロデュースワークを展開。
また、Sony Musicによる音楽人育成講座フェス『Sonic Academy』や『the LESSON』にて、アーティスト論、音楽論の 講義なども手がける。
Twitter : @tsudanaoshi
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